【相談】

 退職した従業員が未払いの残業代があるという理由で裁判所に労働審判手続を申し立てたようで、裁判所から「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」と題する書類が郵送されてきました。労働審判手続とは訴訟とは違うものなのでしょうか。

【回答】

 労働審判制度は、個々の労働者と使用者との間に生じた民事に関する紛争について、その実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とした紛争処理手続です。訴訟も紛争処理手続の一つですが、労働審判手続には以下のような特色があり、訴訟に比べてより柔軟な対応が可能となります。

 まず、労働審判制度においては、裁判官(労働審判官と呼ばれます。)1名及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する民間人2名(労働者側及び使用者側からそれぞれ1名ずつ任命され、労働審判員と呼ばれます。)とで構成される労働審判委員会が原則として非公開で審理を行うこととされています。そして、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終結し、それまでに調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、調停が成立しない場合には、当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行います。

 このように、労働審判制度は、個別的な労働紛争について、その実情に即した適正な解決を迅速に図ることを可能にするための手続ですので、使用者と労働組合との間の集団的な労働関係紛争については、その対象ではありません。対象となる個別的な労働紛争としては、ご相談のような未払い残業代の請求のほか、解雇や雇止め、配転等の効力が問題となる紛争、賃金や退職金等の支払いを求める紛争などがあります。

 次に、具体的な手続についてご説明します。

 労働審判手続は、申立ての趣旨及び理由を記載した申立書を裁判所に提出することから始まります。その後、特別の事由がある場合を除き、申立日から40日以内の日に第1回期日が指定され、答弁書の提出期限が定められます。これらは「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」という書面によって裁判所から伝えられます。申立人側(通常労働者であることが多いです。)は、申立てまでに十分な検討・準備時間を充てることができますが、申立てを受けた相手方側(通常会社であることが多いです。)においては、答弁書の提出期限が約1ヵ月後とされることが多く、答弁書で必要な主張立証を完了させることが予定されているため、申立人側と比較してよりタイトなスケジュールとなります。答弁書に記載すべき事項も指定されており、相当程度の実務上の知見や知識も必要となるため、裁判所から「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」が届いた場合には、すぐに経験豊富な弁護士にご相談されることをお勧めします。

 さて、答弁書を提出した後の第1回期日においては、当事者の陳述を聴いて争点(労働審判手続で争われているポイントです。)及び証拠の整理をし、可能な証拠調べを行った上で、当事者間の合意でまとまる余地がないか調停が試みられることになります。引き続き審理が必要になる場合には、次回期日に行う手続及び次回までに準備すべき事項を当事者との間で確認することになります。第2回期日以降においても、必要と認める証拠調べが行われるほか、引き続き調停が試みられます。なお、当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回期日が終了するまでの間に主張及び証拠書類の提出を終了させなければなりませんので、注意が必要です。

 調停は当事者双方が互譲し合意に至ることが目的ですので、どうしても当事者間の合意が得られない場合には、調停は不成立となります。この場合、審理を終結した上、労働審判が行われることになります。労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払い、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、個別労働紛争の解決をするために必要と認める事項を定めることができます。

 当事者は、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることができ、適法な異議があった場合には労働審判の効力は失われ、地方裁判所に訴えの提起があったものと擬制され、通常訴訟に移行することになります。