労務

降格処分について

【相談】
当社は、投資信託等を行う会社です。近頃、当社は赤字転落しそうな経営状態にあるのですが、営業部の部長であるX氏は何ら結果を出していません。このようなX氏を一般職に降格させたいのですが、法的に問題ないでしょうか。

【回答】
降格とは、役職又は職能資格を低下させることをいい、人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があります。人事権の行使としての降格は、労働者を企業の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄ですので、成績不良や職務適性の欠如など業務上の必要性があり権利濫用に当たらない限り、違法にはならないものと解されています(東京地判平成7年12月4日〔バンクオブアメリカイリノイ事件〕参照)。

そして、人事権の行使としての降格の場合、以下のような要素から裁量権の逸脱・濫用がないかが判断されます。
ⓐ労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様ではないか
ⓑ業務上・組織上の必要性の有無・程度
ⓒ労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか
ⓓ労働者の受ける不利益の性質・程度

これに対し、懲戒処分としての降格については、企業秩序違反行為に対する制裁罰としての性格を有するものですので、懲戒処分に関する法規制に服することになります。
懲戒処分として有効といえるためには、
①就業規則等にその根拠規定が定められており、そこに規定された懲戒事由に該当すると認められること、
②社会通念上相当な内容であること、
③弁明の機会を与えているなど適正な手続がとられていること
といった要件を満たす必要があります。

なお、人事権の行使としての降格(適性や評価の問題)に当たるか、それとも懲戒処分としての降格(制裁罰としての問題)に当たるかは、名目や意図・目的といった観点だけでなく、客観的な性質に即して判断されます。

本件の場合、X氏を部長職から降格させるとしても、一般職まで降格させることが妥当なのかが重要な争点となり、降格させるとしても例えば一段階下の課長にすれば業務上の必要性を達成できるといえる場合には、一般職まで降格させることは行き過ぎであり、違法な降格処分と判断される可能性が高いです。

このように、人事権の行使としての降格であっても、使用者の裁量の範囲内といえるかどうかについては、他の裁判例なども踏まえて慎重に判断しなければ、事後的に違法なものと判断されてしまうおそれがあります。

そのため、労働者に対して降格処分を行う場合には、懲戒処分としての降格ではないとしても、人事労務問題に詳しい弁護士に相談するなどして、違法な降格処分にならないよう手続を進めるのが安全です。

江崎辰典

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
佐賀県出身
平成14年 三養基高等学校卒業
平成18年 立命館大学法学部卒業
平成20年 立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了
平成22年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
平成29年 同事務所のパートナーに就任(現職)

関連記事

カテゴリー

アーカイブ