前回に続きまして、自筆証書遺言において、遺言書が無効に場合としてよく見受けられるケースをお話します。
④相続させたい財産の内容が不明確である。
例えば、「不動産を妻〇〇に相続させる。」との記載を見ることがありますが、複数の不動産を持っている場合には、どの不動産を相続させるのかが不明確であり、自分の思いの通りに相続させられない場合もあります。また、特定が不十分であることは、相続人間でのトラブルのもとになり、遺言内容の確定をめぐり裁判に発展するケースもあります。
⑤2人以上が共同で書いている。
数としては多くはありませんが、自筆証書遺言の中で2人が連名で自書と押印をしている遺言書もあります。
これには夫婦や兄弟などで仲良く、同じ遺志を伝えたいと思われたのか、また、共通の思いであることを伝えることによって相続人がもめることのないようにしてほしいとの思いも含まれているかもしれません。
しかしながら、2人以上の連名があると、その記載がどちらの意思に基づくものか不明確となりますし、1人での遺言書の撤回を制限することにもなります。
このような遺言は、共同遺言と呼ばれ無効とされています(民法975条)。
⑥訂正の方法が間違っている。
自筆証書遺言においてしばしば見受けられるのは、訂正の方法が間違っている遺言です。
自筆証書遺言を訂正する場合には、訂正する文字の上に二重線を引き、その近くに訂正後の文字を記入します。そして訂正した個所の付近に遺言書の最後に押印する印鑑と同じ印鑑を押します。そして、変更箇所の指示した上で、変更した旨を付記して署名しなければなりません。通常の契約書等の訂正とは異なり厳格なルールが定められています。 私どもの事務所では、訂正加筆を行う際の形式の難しさや間違った時のリスクから、可能であれば再度作り直しをしていただくようにアドバイスしております。
⑦遺言を作成した時に遺言能力がない。
遺言を行うには、遺言能力が必要です。遺言能力は、15歳以上であって(民法961条)、遺言の内容およびその遺言によって生じる法的効力を理解できる能力をいいます。
よくあるケースでは、遺言書作成時に病院に通院しており、認知症の診断を受けていたので無効となってしまうのではないかというご相談を受けることがあります。
認知症と言っても症状の程度、日や時間によって症状にばらつきがあり、一律に遺言能力が否定されるわけではありませんので、遺言の内容や効果を理解できる状態で作成された遺言であれば有効となります。 以上のように、自筆証書遺言は、公証人や証人の手を借りずに一人で作成できる反面、形式的な要件が厳しいことや遺言の内容・遺言能力で争われるケースも多いため、弁護士に相談しながら作成した方がよいでしょう。また、上記の争いを可能な限り避けるためにも、公証人が作成する公正証書遺言を作成する方がより安全かと思います。